【おすすめ推理小説その1】メイン・ディッシュ/北森鴻 作(集英社文庫)

おいしくてせつない、垂涎のミステリーといえば「メイン・ディッシュ」。小劇団、紅神楽の主宰者で女優の家に転がり込んだ男性・通称ミケさんは、プロ顔負けの料理の腕を持っている。美味しい料理を作りながら劇団で起こる事件を推理するミケさんだが、実は自身も誰にも言えない謎を抱えていた…。
随所に料理のレシピや評論が登場し、思わず「食べたい~!」と悶絶しちゃいそう。なかでも、食べると誰もがうれしい悲鳴をあげるという「謎のフリッター」が気になって仕方がない。揚げたてに山椒を軽くまぶして食べると、クニクニした舌あたりが口内でタップを踏むのだとか。遊びに来た劇団員に100個以上も作るが、ほとんどなくなるというほどの人気ぶり。その食べ物の正体は後にわかるのですが、一度作って食べてみたくなること間違いなし!
そのほかにも、ミケさんオリジナルのブイヤベースやビールをおいしくしてくれる中華野菜炒めなど、真似して作りたくなる料理がたくさん。
物語は一見関係ないと思われるような出来事が絡み合って、意外な結論に導く連作ミステリー。 読んでいくうちにお腹が空くものの、ストーリーに引き込まれてページから目が離せなくなりそうです。

メイン・ディッシュ (集英社文庫)
¥ 680
【おすすめ推理小説その2】ミミズクとオリーブ/芦原すなお 作(創元推理文庫)

和食が好きという人におススメなのが、香川の郷土料理の数々が登場する「ミミズクとオリーブ」。美しくおしとやかで料理上手という世の男性が憧れるような奥さんが、実は数々の事件を解決する名探偵! 自慢の手料理を給仕しながら、夫の友人が持ち込んだ様々な事件を家から一歩も出ずに次々と解決していきます。
常に夫を立てることを忘れず、ときに可愛くて料理上手な奥さんが作る和食は、日本人なら誰もが食べて癒されるであろうシンプルで懐かしいものばかり。
焼いたカマスのすり身と味噌をこね合わせた「さつま」、黒砂糖と醤油で煮つけた豆腐と揚げの煮物。カラ付きの小海老と拍子木に切った大根の煮しめ…などなど、思わず日本酒を片手に読みたくなります。
お庭で焼き芋を焼いて食べたり、庭のオリーブの木に飛んでくるミミズクを餌付けしたり、何とも言えない愛らしさ溢れる夫婦の会話など、料理だけでなく情景描写にも癒される、ほのぼのしたミステリー。休日、お酒片手にゆるりとご賞味あれ。

ミミズクとオリーブ (創元推理文庫)
¥ 626
【おすすめ推理小説その3】グルメ探偵、特別料理を盗む ピーター・キング 作(ハヤカワ・ミステリ文庫)

作者であるピーター・キングは、コルドン・ブルー級の料理の腕前を持ち、グルメガイドなどを書いているそう。その腕をふるって仕立てた本書は、ワインと共にいただきたくなる美食のフルコースが満載。
面白いのは、「料理専門のグルメ探偵」という一風変わった探偵ものであるということ。ライバル店で大人気の特別料理のレシピを探り出すという依頼を受け、さっそく調査に乗り出したもののとんでもない事件に巻き込まれていく…というストーリー。
しかしさすがはグルメ探偵、料理の話だけでなく、素材の産地、どんなお酒が合うかという話題も盛りだくさん。さらに、料理に合うBGMにまでこだわるというから驚きます。ただ、詳しいのは食べ物のことだけで、探偵とは思えないほどぬけているというギャップが笑えます。巻き込まれた殺人事件を推理するところでは、思わず突っ込みたくなるような間抜けぶりを披露しています。
クスッと笑いつつ食欲も刺激される一冊です。

グルメ探偵、特別料理を盗む (ハヤカワ・ミステリ文庫)
【おすすめ推理小説その4】タルト・タタンの夢/近藤史恵 作(創元クライム・クラブ)

読後、間違いなくフランス料理を食べにレストランへ行きたくなるであろう本書は、下町の片隅にある小さなフランス料理店「パ・マル」で展開する物語。変わり者シェフが、お客さんたちの巻き込まれた事件や謎をあざやかに解いていく7編のショートストーリーです。
様々な人間模様が描かれ、人の本質を見抜くシェフの推理は流石。毎回ストーリーの終盤にお客さんを癒す飲み物としてヴァン・ショー(ホットワイン)が出てくるのですが、これを飲みたくて飲みたくて…。実際に作ったなんて人はけっこういるのではないでしょうか!
温めた赤ワインのお湯割りにオレンジの輪切りとシナモンを加えて作るヴァン・ショーは、フランスでは風邪の引き始めに飲むのだとか。甘くすればお酒が苦手な人も美味しく飲めそうです。
こんなお店が近所にあったら…と想像しながら読み進めていくうちに、頭の中は「フレンチ!」でいっぱいに。フレンチに詳しくない人でも、調理法や味がしっかり描かれているので大丈夫。本をバックに忍ばせてレストランに出かけてみれば、また違った楽しみが味わえるかも!?

タルト・タタンの夢 (創元クライム・クラブ)
【おすすめ推理小説その5】鴨川食堂/柏井壽 作 (小学館文庫)

数々のTV番組や雑誌の京都特集の監修をつとめる作家の柏井壽さんは、京都生まれの京都育ち。その京都を舞台に、誰もが必ず持っている「食の思い出」を再現するという探偵事務所も兼ねた食堂の物語。
京都・東本願寺近くで営む「鴨川食堂・鴨川探偵事務所」は、思い出の料理を再現するためにお客さんを取り調べるがごとく、思い出の料理にまつわる聞き込みを行います。その調書を元に思い出の味を推理して見事に再現するところは見事なもの。
夫の揚げていたとんかつを再現したいという女性、母が作ってくれた肉じゃがをもう一度食べたいという青年など、さまざまな客が訪れては「思い出の料理」をいただく…ちょっと夢のようなお話。自分だったらどんな思い出の料理を再現してもらおうか、と考えてみるのも面白いですね。
「鯖寿司」「ビーフシチュー」「鍋焼きうどん」「とんかつ」「肉じゃが」「ナポリタン」の思い出と味を求めて6人の客が訪れるので、1冊で6食味わえるのも嬉しいところです。一話づつ味わうように読みたくなる本書は、料理も思い出も温かみに溢れ、思わずホロリとしちゃうかもしれません。

鴨川食堂 (小学館文庫)
¥ 616
2児の母。食育インストラクターの資格取得。専業主婦から久しぶりのお仕事再開。40代も輝けるように何事も全力投球中。