上手くいかなくて落ち込んだら・・・【心をうるおす大人の絵本 # 08】

上手くいかなくて落ち込んだら・・・【心をうるおす大人の絵本 # 08】

【絵本コーディネーター・東條知美の大人の絵本シリーズ】新しいことがスタートする春。慣れないことばかりで上手くいかなくて落ち込む…なんてことが多いシーズンかもしれません。そんな落ち込んだ心を癒してくれる大人こそ読みたい絵本を絵本コーディネーター東條知美さんがピックアップ!


独特の感性と語り口調で人気の絵本コーディネーター東條知美さん。今回は新しいことを始めたばかりのこの季節にこそ、知りたい【上手くいかなくて落ち込んだ時に読みたい絵本】を紹介してもらいました。大人にこそ、絵本が必要なんです。

失敗してネガティブ沼にはまっちゃうあなたへ

風薫る5月。こんにちは、令和!
新しい時代とともに、一年でもっとも気持ちの良い季節がやってきました。ところで、「これまでに何か失敗したことがありますか?」と聞かれたら、皆さんは何と答えますか?

・・・ その失敗を思い出した途端、さっきまで感じていた爽やかな風が、しだいに重苦し~い空気へと変わっていくのを感じませんか。

“失敗”という経験はすごいもので、いつまでも脳内に残り、その時の気持ちや状況を再現し、私たちに「キケン」と働きかける性質を持っているのだそうです。

「わたし、失敗しないので」…これは、米倉涼子が凄腕の外科医役を演じたドラマ『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系列)の決めぜリフです。クールに言い放たれるこの名セリフこそが、ドラマの大ヒットの決め手となったと言っても過言ではないでしょう。なんたって、痛快だもの!

脚本家の中園ミホによると、ある時ふとテレビで見た、ロンドン五輪で金メダルを獲得した女子柔道・松本薫の言葉がヒントとなったのだそうです。インタビュアーの松岡修造から「失敗は考えなかった?」と聞かれた松本薫は「私、ミスはしないので」と答えました。天晴れ!

名ゼリフ誕生のきっかけは、職業こそ違えど、自らの努力によって“尋常ならざる強さ”を手にした、誇り高き女性から発せられたものだったのですね。言葉にすることで、さらに自らに課せる覚悟…というのもあったのでしょう。はんぱないなあ。

強さや完璧さに憧れを抱きつつ、本当は失敗しない人間などどこにもいないのだということを、私たちは知っています。

「失敗は成功のモト」「失敗から学べ」「挑戦のないところ、失敗もない」・・・

はいはい、もう知ってる、知ってるよ。小学生の頃から何度も聞かされてきたよ。でも上手くいかない時はどうしても落ち込んじゃうんだよ! しばらくはネガティブ沼にはまっちゃうんだよ!・・・という私とあなたのために。

優しく寄り添ってくれる絵本をご紹介します。

『3びきのかわいいオオカミ』(ユージーン・トリビザス 文/ヘレン・オクセンバリー 絵/こだまともこ 訳 冨山房)

だれもが知っているお話「3びきのこぶた」が、楽しくひねられた“パロディー絵本”。
親元を離れ自分たちの家を建てなければならないことになった「3びきのかわいいオオカミ」と、「とんでもないわるブタ」による攻防。
はじめはレンガの家、お次はコンクリートの家…。オオカミたちの作る家は、どれだけ頑丈に作っても、その都度非情なわるブタによって破壊されてしまいます。
3びきのかわいい憐れなオオカミたちは、いったいどうしたらよいのでしょうか…?
* * * *

礼儀正しく真面目、穏やかな性格のオオカミたちに、落ち度はありませんでした。

ところが このブタ、わるいのなんのって もう とんでもない わるブタだったんです。

…なにゆえ、あのような凶悪なブタにつけ狙われることになったのでしょうか?

最初のレンガの家は、ハンマーで打ち壊されました。2軒目のコンクリートの家は、電気ドリルでめちゃくちゃに。3軒目、鉄条網を張り巡らせ南京錠を67個もかけた家も、ダイナマイトでどっか~ん!…非常にもすべて破壊されてしまったのでした。もう、たまったものではありません。

・・・不条理。どう考えても不条理。あんなのが相手では何をやってもうまくいかない。あのブタ、サイコパスなんじゃないの~!?

でもね、ちょっと待ってください。
繰り返される失敗の裏には、きっと私たちが見落としてしまっていることがあるはずです。

最初にわるブタを近くの道で見かけた時、挨拶もせずに家に駆け込み、鍵をかけたのは誰?

家に入れて欲しがったブタに、3びきのオオカミが返した言葉はどんなものだったのでしょう?

ギリシャの有名な詩人であり劇作家、テレビの脚本も書いているユージン・トリビザス(今作品の作家)は、犯罪学者でもあります。

イギリスに伝わる昔話を大胆にユニークにアレンジしたこの物語は、(あまりの展開に)読者をハラハラさせたり大笑いさせたりしながら、最後に(あくまでさりげなくですが)ある種の気づきをあたえてくれる…大人にもぜひおすすめしたい絵本です。

何度やってみてもうまくいかない時は、その視点をちょっとだけ(あるいは180度)ズラしてみて。

だいじょうぶ。失敗の本質に気づくことのできたあなたなら、もう同じパターンを繰り返すことはありません。

『うえきやのくまさん』(フィービとジョーン・ウォージントン 作、絵/まさきるりこ 訳 福音館書店)


あるところに、うえきやのくまさんが、すんでいました。
くまさんは、スコップと くまでと、ちいさな あかい ておしぐるまを、もっていました。

(略)

2じになると、くまさんは、スコップと くまでを ておしぐるまに つみこんで、じぶんのいえの はたけに でかけました。
ぎぃー がたん、ぎぃー がたん!

(略)

くまさんの やさいは とても おいしいので、きんじょの ひとたちは、よろこんで くまさんの やさいを かいました。
くまさんは、いつも、「こんにちは」や「どうも ありがとうございます」を わすれません。

* * * *

この“仕事をするくまさん”が主人公の絵本は、シリーズで他に「パン屋さん」「石炭屋さん」「郵便屋さん」があります。どのくまさんにも共通するのが、朝から夕まで淡々と、自分のやるべき仕事をやっているという点です。

そこにはいっさいの迷いも、邪心も、焦りもありません。

・・・ここまで書いていて気がつきましたが、このくまさんにはいわゆる“野心”というものはないのかもしれません。

自分の愛する仕事を、信じたやりかたでただコツコツと続けた結果…おいしい野菜、美しい花を育てる技能が磨かれたのでしょう。お客さんから絶大なる信用を得るに至ったのでしょう。

失敗にもいろいろな種類がありますよね。
◆むずかしい挑戦をした際の失敗
◆状況の読み間違いや、思いこみが引き起こした失敗
◆気のゆるみや勘違いが引き起こした凡ミス
・・・
『うえきやのくまさん』に野心がないからといって、挑戦も失敗もなかったとは思いません。自然を相手にした仕事では、私たちの想像もつかないようなアクシデントも無数に起こることでしょう。

害獣被害に泣いた年もあるかもしない。
それでも、だからこそ、
毎日やるべきことをコツコツと、試行錯誤しながら続けた者にしか持つことのできない“揺るぎない自信”を・・・笑顔などひとつも描かれないくまさんではありますが、わたしにはひしひしと感じられるのです。

『うれないやきそばパン』(富永まい 文/いぬんこ 絵/中尾昌稔 作 金の星社)

物語の舞台は、おじいさんが営む昔ながらの町のパン屋さん。ある日、隣町におしゃれなパン屋ができて以来、すっかり客足が減ってしまいます。売れ残りのパンを毎日捨てることに我慢できなくなったおじいさんは、隣町のパン屋を真似て、生クリームとフルーツをたっぷり乗せたおしゃれなデニッシュを作って店に出すことにしました。

古くからこの店に並ぶあんぱん、クリームパン、ジャムパン、カレーパンたちは、すぐに超売れっ子となった、かっこよくて威勢の良いデニッシュ(名前はポール)にすっかり気圧されてしまいます。

売れないやきそばパンのピョンタは、おじいさんのためを思い、この店を去ることに決めます。そんな時・・・

「このあじよ おもいだすわ」

子供を連れたひとりの女性がやってきます。女性がやきそばパンを食べると、その胸は懐かしさでいっぱいになるのでした…。

* * * *

漫画風なタッチの絵、擬人化されたパンの超個性的ないでたちに一瞬で心を掴まれるこちらの絵本。

一所懸命がんばってみても、どうしてもうまくいかない時って、人生にはあると思うんです。

(きっと)「ブーランジェリー○○」みたいな新しいパン屋が近くにできたら、行ってみたいと思うのが人情。さらに「インスタ映え」が人々の購入行動における大きな動機となった今、目新しくて「ばえる」ポール(デニッシュパン)ばかりがモテるのも仕方がありません。

ああ、でもよかった、ピョンタ(やきそばパン)の美味しさをちゃんと覚えてくれてくれている人がいて。

上手くいかない時もある。
そこで(上手くやれている)他人と自分を比較してみて、「いらぬ改善」と思ったらそのままでいることも必要なのです。
  
どんな時もかならず、真面目に取り組んでいれば、見てくれている人はいるものだ・・・というのが、半世紀近く生きてきた私の実感です。
やるべきことを、誠実に。がんばりましょ。

絵本コーディネーター 東條 知美



本サイトに記載する情報には充分に注意を払っておりますが、この記事の情報及びこの情報を用いて行う利用者の判断について、完全性、正確性、有益性、特定目的への適合性、その他一切について責任を負うものではありません。この記事の情報を用いて行う行動や、判断・決定は、ご自身の責任において行っていただきますようお願い致します。

この記事のライター

子どもから高齢者まですべての層に向け“毎日がちょっと豊かになる絵本”をコーディネート。講演・テレビ出演等、活躍の場を広げている。

関連するキーワード


東條知美 大人の絵本

関連する投稿


初めてのことにチャレンジするのは怖い!そう感じた時に読みたい絵本 【心をうるおす大人の絵本 # 07】

初めてのことにチャレンジするのは怖い!そう感じた時に読みたい絵本 【心をうるおす大人の絵本 # 07】

大人になると初めの一歩がなかなか踏み出せない。新しいことにチャレンジするって勇気が必要。どうしたらその勇気が出るのか? 絵本コーディネーターの東條知美さんにそんな大人のための絵本を教えていただきました。


“さよならだけど さよならじゃない” あの日の私に贈りたい絵本 【心をうるおす大人の絵本 # 06】

“さよならだけど さよならじゃない” あの日の私に贈りたい絵本 【心をうるおす大人の絵本 # 06】

【東條知美の大人の絵本シリーズ】人との別れはいつも寂しいものですよね。そんな時、この絵本を読むと心がほっこりあったかくなるかもしれません。大人に読んで欲しい絵本の紹介です。


やさしい気持ちになりたい夜 心がじんわりあたたまる絵本を【心をうるおす大人の絵本 # 05】

やさしい気持ちになりたい夜 心がじんわりあたたまる絵本を【心をうるおす大人の絵本 # 05】

【絵本コーディネーター・東條知美の大人の絵本シリーズ】辛い時悲しい時困った時、大人になった今だからこそ読みたい心をうるおす一冊を紹介していただきます。連載第五回目はやさしい気持ちになりたい夜に読みたい心がじんわりあたたまる絵本です。


絵本でパワーチャージ! なんだか元気がない時はこの絵本 【心をうるおす大人の絵本 # 04】

絵本でパワーチャージ! なんだか元気がない時はこの絵本 【心をうるおす大人の絵本 # 04】

【絵本コーディネーター・東條知美の大人の絵本シリーズ】辛い時悲しい時困った時、大人になった今だからこそ読みたい心をうるおす一冊を紹介していただきます。連載第四回目は【絵本でパワーチャージ! なんだか元気がない時はこの絵本】です。


あの頃を覚えてる? 小さな子供だった頃の私に会える絵本 【心をうるおす大人の絵本 # 03】

あの頃を覚えてる? 小さな子供だった頃の私に会える絵本 【心をうるおす大人の絵本 # 03】

【絵本コーディネーター・東條知美の大人の絵本シリーズ】辛い時悲しい時困った時、大人になった今だからこそ読みたい心をうるおす一冊を紹介していただきます。連載第三回目は【あの頃を覚えている? 小さな子供だった私に会える絵本】です。


オススメ情報

業界最多の非公開求人からご希望に沿った求人をご紹介、あなたの転職を成功に導きます。



業界最多の非公開求人からご希望に沿った求人をご紹介、あなたの転職を成功に導きます。



最新の投稿


東神奈川「三国屋酒店」手作り料理が絶妙な昭和9年創業の酒店【中沢文子の女・酒場巡礼#10】

東神奈川「三国屋酒店」手作り料理が絶妙な昭和9年創業の酒店【中沢文子の女・酒場巡礼#10】

昔、酒店の店先に立ちながら酒を飲むことを「角打ち」といい、北九州発祥といわれてます。現在でもこの形式で飲める酒店があり、東神奈川にある昭和9年創業の「三国屋酒店」もその1つ。現在も、店内で販売されている酒や手作り料理を座りながら楽しむことができます。アットホームな雰囲気で、女性客が気軽に飲むことができます。


バツイチの私、プロポーズされましたが事実婚を望んでいます【オトナの幸せ恋愛心理術 #19】

バツイチの私、プロポーズされましたが事実婚を望んでいます【オトナの幸せ恋愛心理術 #19】

“事実婚”という言葉がメディアでも多く取り上げられるようになりました。実際、一度離婚を経験すると法律婚をすることに抵抗を持つ人も多いようです。パートナーが法律婚を望んでいる場合、なぜ事実婚がいいのか、というメリットについて正しく伝え気持ちを分かってもらう必要があります。恋愛カウンセラーの鹿屋由佳さんに聞きました。


シミと肝斑の違いとは? アラフォーからのシミケア方法【アラフォーから始める美肌作り#18】

シミと肝斑の違いとは? アラフォーからのシミケア方法【アラフォーから始める美肌作り#18】

アラフォーになり、肌の衰えを感じる人も多いと思いますが、なかでもシミや肝斑…「こんなところにこんな大きいのあった!?」といきなり出現するのがシミや肝斑です。いったいどうすればシミや肝斑に悩まされなくなるのか。ケア方法をスキンケアアドバイザーの松瀬詩保さんの教えていただきます。


転職を繰り返す夫… 家計が安定しません どうしたらいい?【夫婦問題お悩み相談室 #39】

転職を繰り返す夫… 家計が安定しません どうしたらいい?【夫婦問題お悩み相談室 #39】

転職を繰り返す夫のせいで生活が安定しない。夫にひとつのところに安定して勤めて欲しいと願う妻は多いでしょう。いったいどうしたら働き続けてくれるのか?夫婦問題カウンセラーの渡辺里佳さんに聞きました。


若く見えるから大丈夫?「自称童顔」「昔のモテ経験」は手放そう【菊乃流 アラフォー本気の婚活術 #44】

若く見えるから大丈夫?「自称童顔」「昔のモテ経験」は手放そう【菊乃流 アラフォー本気の婚活術 #44】

実年齢を言うと「ウソ~、そんな年に見えない!」と言われる。同年代より体力にも自信がある。独身だし気持ちも若い! だから婚活だって余裕でしょ! いえいえ、その自信が婚活の足を引っ張ります。美人でモテた過去の経験が手放せない女性ほど婚活は苦戦するのです。








人気記事ランキング


>>総合人気ランキング