40代女性の四半世紀を描く『オーディションから逃げられない』著者 桂望実さんインタビュー<前半>【#FocusOn】

40代女性の四半世紀を描く『オーディションから逃げられない』著者 桂望実さんインタビュー<前半>【#FocusOn】

『県庁の星』や『嫌な女』の作者・桂望実さんの新刊『オーディションから逃げられない』。40代女性の四半世紀がそこには綴られています。女性はいつもオーディションに立たされているようなもの。そんな人生を一生懸命ひたむきに生きる主人公に自分を重ね合わせるアラフォー女性も多いと思います。作者の桂望実さんにインタビューした前半です。


映画化もされた『県庁の星』や『嫌な女』の作者・桂望実さんの新刊『オーディションから逃げられない』。

物語の主人公は「辛いけど、人生はオーディションの連続」という40代の展子。読み進めていくうちにどんどん展子が大切な同級生のように感じられ、小説の世界に自分が入り込んだような気になります。

アラフォー女性が生きてきた中で感じてきた様々な想いを中学時代からおさらいするような感覚は爽快。

桂望実さんにはこの本に込めた想いや人生の先輩として、40代をどう過ごせばいいかなどお話いただきました。その前半です。

『オーディションから逃げられない』は居酒屋で担当編集者と話している中で決まった

--『オーディションから逃げられない』拝読しました。展子はいつも“オーディションに選ばれない側”の人間で自分の事を“ついていない”と思っていました。なぜこのようなテーマで小説を書かれようと思ったのでしょうか?

「ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢」というドキュメンタリーがあるんですが、それは「コーラスライン」というミュージカルの役を勝ち取るための舞台裏を記録した二重構造の映画なんです。それがとても面白くて。

受かるのか? ダメなのか? と、人が選別されるドラマティックさに惹かれたんですが、そういうシチュエーションは普通の人生を送っている人にも毎日のようにあるなあって思ったんです。それで、担当の編集者さんと次の小説のテーマをどうするか、という話を居酒屋でしていた時に、いくつかのネタの一つとして披露したらすぐに「オーディションでいきましょう!」となったんです。

――テーマが決まったのは居酒屋だったんですね!(笑) 主人公の展子は決してポジティブな性格ではないと思うのですが、なぜあのように「私ばっかり損してる!」と思うような悲観的な主人公にしたんでしょうか?

誰でも一度は“ついてない”って思ったことがあるんじゃないかしら

長編の小説を書こうと思った時に、スーパーポジティブな主人公を設定すると読者がついていけないと思うんです。ほとんどの人は弱い部分や否定的な考えを持っていたりする。なので、「ああそうだよね、そういう風に思っちゃうよね」とか共感できて近い存在の主人公にしたいと思いました。

それにね、「なんであの人ばっかり良い思いするの!」と思ったことって、人生のうちで一度や二度はあると思うんです。「私ばっかりついてない!」って気持ちが沸き起こること、ありますよね。

――あります!(笑) だからか、展子が感じる思いを同じように感じてしまってすごくヒリヒリしました。物語を書く時は展開を綿密に考えて進めるのでしょうか?

プロットは最初に書くんですが、私の場合は登場人物の性格や設定をしっかり立てると、書き始めたら勝手にそれぞれ動いてくれるんです。本当にドンドン勝手にみんな動いて行ってしまうので、見失わないように追いかけるのに必死です。そんな状態なので、最初の脚本通りにはならなかったりします(笑)

――そうなんですか! ものすごくリアルに自然に一人ひとりが存在していて、それぞれが感じる気持ちも良く分かって実在の人物のようでした。展子を取り巻く登場人物の中に悪人がいないな、と思ったのですがそれはなぜでしょうか?

小説のバランスで、展子の人生は山あり谷ありでなかなかドラマティックなんですよね。そんな時に、悪人まで登場させてしまうともう情報が多すぎてあちこち飛んでいってしまうんです。なので、展子もいたって普通の女性として描きました。

あとはね、展子の中学からの人生を描いているわけですが、すべての出来事を書いているわけではないので、もしかしたら悪人もいて展子はすごく嫌な思いもしているかもしれないんです。ただ小説の中に出てきていないだけで。

――ああ、なるほど…とても納得しました。

理不尽な目にあってもがむしゃらでひたむきに生きる普通の女性を書きたかった

――主人公の展子は自分で自分の人生を決められるとても強い女性だと思いました。ただ、自分で決めるって実際にはすごく難しいことだと思うんです。展子を自分で決められる強い女性にしたのはなぜでしょうか?

うーーん、展子がそういう女性だったんですよね(笑) 展子は早くにお母さんを亡くして、三人姉妹の長女です。お父さんはパン屋さんで…家の事を色々早くから自分が率先してやらなければならなかった。「私がしっかりしなきゃ」っていつも頑張っていた子なんですよね。泣いた顔なんて人には見せずに。だから自然と自分の人生も自分で決めるのが当たり前になってしまったんじゃないかしら。

――なるほど…リアルです。

展子が頑張り屋さんのしっかり者だったから、お父さんはのんびり屋さんの優しいパパにしたんです。

――展子のお父さんは理想の父親だなあって思いました。しかし、展子は本当に頑張りましたね。

私ね、いつも何かと戦っている、がむしゃらでひたむきに生きている人が好きなんです。スポーツ観戦がすごく好きで。タイムを10秒縮めるとか、1㎝高く飛べるようにするとか、関係のない人にとってはそう大差ないことじゃないですか。でも、当人にとっては大きなことでその目標に向かってがむしゃらに、そしてひたむきに頑張っている。そんな姿に惹かれるんです。

それに人生は理不尽なことがたくさん起こりますよね。まさに展子のいうところの「こんなに努力しているのになんで私ばっかり!」っていうようなこと。でも、そんな壁にぶつかってもひたむきに頑張り続ける、そんな人を書きたかったんです。

――登場人物みんなが必死で頑張って生きている感じがすごくしました。展子の夫も…会社は倒産するし、パン屋になるって言いだしたのは自分なのにパンは焼けないし、レジも完璧にできない。挙句に若い女と浮気する…となった時にはさすがにどうしようかと思いましが、さらに読み進めると「良い奴じゃないか!」と(笑) しかし、浮気された時に展子が離婚しなかったのには驚きました。

私もです!(笑) 展子…離婚しなかったんですよねえ。

――あの世界の展子が決めたことなんですよね(笑)

そうですね(笑) 浮気されてものすごくショックで悲しい出来事ではあったと思うんです。でも子どももいたし、子どもはパパのこと大好きだったし、そういうこともあったのかな。その後も瞬間瞬間は腹ただしいこともたくさんあったとは思うけれど、何年も経ってこの人と結婚してよかったって思っているんじゃないかしら。

――ネタばれになってしまうので、あまり言えませんが物語の時間軸を2つ設けたのはなぜでしょうか?  

はじめはまた違う設定で2つの時間軸を交差させていたんですが、書き進めていくうちに「違うかな?」と思い始めて。でもいったん最後まで書いてから編集者さんに「取り消したい」って言って見せたら「もっと入れていきましょう!」となって増やしたんです。

――終始穏やかに笑顔でお話してくださる桂望実さん。後半はご自身のキャリアについてと、現代の40代女性の生きづらさについて先輩として思うことなどについてお話を伺いました。お楽しみに。※4月19日(金)公開予定

文/和氣 恵子、撮影/鈴木 志江菜



作家 桂望実さん
1965年東京都生まれ。大妻女子大学卒業。会社員、フリーライターを経て、2003年、『死日記』でエクスナレッジ社「作家への道!」優秀賞を受賞しデビュー。映像化された『県庁の星』『恋愛検定』『嫌な女』のほか、『ボーイズ・ビー』『ハタラクオトメ』『頼むから、ほっといてくれ』『総選挙ホテル』『諦めない女』『僕は金になる』など著者多数。

著者公式HP 

オーディションから逃げられない

¥ 1,620

渡辺展子はいつも「ついてない」と思っていた。中学でできた親友は同じ苗字なのに学校一の美女・久美。同じ「渡辺」でも、注目されない方の「渡辺」になった。絵が好きで美術部に入るが、そこでは「一風変わった絵」を描くだけの同級生がなぜか注目を集め評価されてしまう。就職活動をしてみれば、仲良し四人組の中で自分だけ内定が取れない。幸せな結婚生活を夢見ていたのに、旦那の会社が倒産する…。“選ばれなかった”女性の、それでも幸せな一生を描く。



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